ケイデンスとは?音楽のテンポでわかる「楽に長く走る」コツ
自転車を速く走らせるには、二つの考え方があります。
重いギアを思いっきり踏んでスピードを出すか、軽いギアを速く回して伸ばすか。
一見、力強く踏み込む方が速そうに見えますが、長く・楽に走れるのは後者です。
その鍵になるのが「ケイデンス」という考え方。
ギター講師の筆者が音楽の知識も絡めて、初心者向けに解説します。
ケイデンスとは「ペダルの回転数」
ケイデンスとは、ペダルの回転速度のことです。
1分間にペダルが何回転するかを表し、単位はRPM(Revolutions Per Minute=1分あたりの回転数)。
RPM90なら、1分間にペダルが90回転している状態です。
一般的なケイデンスはRPM60〜90の範囲とされ、速く長く走るときは90が一つの目安とされています。
つまり、RPM90を保てるギアを選び続けるのが、効率のいい走り方ということになります。
なぜ90なのか。
ここはギア比の話と表裏一体です。
ギア比の記事では「ギア比=ペダルの重さの設定」と書きましたが、ケイデンスはそれを「どれくらいの速さで回すか」の話。
同じ速度を出すにも、重いギアをゆっくり踏むか、軽いギアを速く回すかで、体への負担のかかり方がまるで違うのです。
なぜ高めの回転数だと楽なのか
重いギアを低い回転数で踏むと、一回ごとのペダルにかかる力が大きくなります。
これは脚の筋肉、とくに膝への負担が大きい。
短時間なら力が出ますが、筋肉は先に疲れてしまいます。
一方、軽いギアを速く回すと、一回あたりの力は小さくて済みます。
そのぶん負担が筋肉から心肺(心臓や肺)の方へ移っていく。
心肺は筋肉より持久力があるので、結果として長く、楽に走り続けられる。
これが「高めのケイデンスが効率的」と言われる理由です。
負担を、すぐ疲れる脚から、粘りのある心肺へ逃がす——そう考えると腑に落ちます。
膝を傷めにくいという意味でも、初心者にこそ意識してほしいポイントです。
逆に言えば、ケイデンスは今のギアが合っているかのサインにもなります。
ペダルが重くて回転数が上がらないなら、ギアが重すぎる状態。
逆にスカスカ回るばかりで進まないなら、軽すぎる状態。
低すぎず高すぎず、心地よく回り続ける一点を探るのが、ギア選びのコツです。
ケイデンスの測り方は「音楽のテンポ」
とはいえ、RPM90と言われても、自分が今どれくらいで回しているかなんて分かりません。
ここで筆者の本業、音楽が役に立ちます。
RPMは「1分間に何回」という単位ですが、これは音楽のテンポを表すBPM(Beats Per Minute=1分間の拍数)とまったく同じ構造です。
BPM120の曲なら、1分間に120回拍を刻む。
つまり、知っているテンポの曲を思い浮かべて、その拍に合わせてペダルを回せば、狙ったケイデンスが作れるわけです。
サイクルコンピューターのような計測機器がなくても、頭の中の曲だけでリズムが取れるため、まずはこの方法で十分です。
ここで大事な注意があります。
実際にイヤホンで音楽を聴きながら自転車に乗るのは、周囲の音が聞こえなくなって非常に危険です。多くの地域で交通ルール上も禁止されています。
ここで言うのは、あくまで知っている曲を頭の中で鳴らして、リズムのガイドにするということ。
音は鳴らさず、脳内再生で。これが大前提です。
ケイデンスを合わせるくらいであればイントロやサビを何となく思い出すくらいで十分です。
左右交互に、拍を踏む
合わせ方にはコツがあります。
ペダリングは左右の足が交互に下りる運動なので、1拍ごとに左右の足が交互に踏み込むように合わせます。
テンポのいい曲に乗って、右・左・右・左と拍を踏んでいく。
この場合、曲のBPMの半分がケイデンス(RPM)になります。
BPM180の曲なら、左右交互で踏めばRPM90。狙いの効率ゾーンにぴったりはまります。
つまり、ノリのいいアップテンポな曲ほどガイドに使いやすい。
BPM90はそのままRPM90のガイドとして使えなくも無いのですが、ローテンポな曲になると脳内再生の速度がブレやすいのと、ペダル1回転につき1拍になるためどちらか片方の足だけでリズムを刻む必要があります。
その場合、片足に力が入りがちという事と、走行スピードに対して曲のテンポがスローというギャップもあってちょっと使いにくいので、狙ったRPMの倍のBPMの曲をガイドにする方が走りやすいという訳です。
テンポ別・脳内再生プレイリスト
狙うケイデンス別に、ガイドに使える曲をまとめました。
脳内再生のテンポは多少ブレるので、BPMはおおよその目安です。
きっちり合わせるより、「この曲のノリくらい」という感覚で十分です。
平地でキビキビ巡航したいとき(左右交互でRPM90前後/いずれも約180)
GLAY「誘惑」、ASIAN KUNG-FU GENERATION「リライト」、Mrs.GREEN APPLE「インフェルノ」、KANA-BOON「シルエット」、Ado「うっせえわ」。
坂道や、軽快に流したいとき(約160) King Gnu「一途」、BUMP OF CHICKEN「天体観測」、サカナクション「新宝島」、Vaundy「踊り子」、相川七瀬「夢見る少女じゃいられない」。平地の約180より少しゆったりめのテンポで、坂で焦らずリズムを刻むのに向いています。
ゆったり流したいとき(約120) 米津玄師「LOSER」、Suchmos「STAY TUNE」、藤井風「きらり」、NIRVANA 「Smells Like Teen Spirit」
のんびり景色を眺めながら走るときの、落ち着いたペース作りに。
世代やジャンルを散らしてあるので、自分が一番くっきり脳内再生できる曲を選ぶのがコツです。
サビが口ずさめるくらい知っている曲ほど、テンポが安定してガイドになります。
坂道では、速度より回転数を意識する
坂道のケイデンスは、平地よりやや落ちて60〜80あたりが目安になります。
低すぎると脚に疲労が溜まり、高すぎると息が上がってしまう。
なるべく負担がかからない回転数を維持するのが鉄則です。
ここで多くの人がやりがちなのが、坂で速度が落ちることに焦って、立ち漕ぎで一気に登ろうとすること。
気持ちは分かりますが、これは脚を急速に消耗させます。
坂では、速度が落ちるのは当たり前と割り切って、速度ではなくケイデンス(回転数)の方を意識する。
同じリズムでペダルを回し続けることだけに集中すると、比較的楽に登り切れます。
坂用の少しゆっくりした曲を頭の中で流しておくと、ペースを乱されずに済みます。
街乗りでは、神経質にならなくていい
最後に正直なことを書きます。
ここまでケイデンスの話をしてきましたが、RPM90という目安は本来、長距離を走るロングライドやスポーツ走行のためのもの。
信号や横断歩道でしょっちゅう止まる街乗りでは、巡航ケイデンスを厳密に保つ場面はそう多くありません。
止まるたびにリセットされるので、数字を神経質に追う意味は薄いのです。
それでも知っておく価値はあります。
なぜなら、「自分は今、重すぎるギアをえっちらおっちら踏んでいるな」と気づけるようになるから。
その気づきがあるだけで、一段軽くして回転を上げる、という選択ができる。
脚が楽になり、膝への負担も減る。
街乗りでケイデンスを意識するメリットは、速く走ることより、この「楽に走る」の方にあります。
肩肘張らずに、頭の隅に置いておくくらいがちょうどいいでしょう。
ケイデンスは、ギア比とセットで初めて意味を持つ考え方です。
ギア比でペダルの重さを決め、ケイデンスでそれを回す速さを決める。この二つが噛み合ったとき、自転車は一番気持ちよく進みます。
ギア比の話を読んでいない方は、あわせてどうぞ。




